夏から秋にかけて、家の軒下や庭木などでよく見かけるアシナガバチ。スズメバチに比べるとおとなしい印象がありますが、ひとたび刺されれば、焼けつくような激しい痛みに襲われます。この強烈な痛みの正体は、彼らが持つ強力な「毒」にあります。アシナガバチの毒は、単一の成分ではなく、様々な化学物質が複雑に組み合わさったカクテルのようなものです。その主成分には、まず「セロトニン」や「ヒスタミン」といったアミン類が含まれます。これらは、刺された箇所の血管を拡張させ、血漿成分を漏出させることで、赤みや腫れ、そして強烈な痒みを引き起こします。特にセロトニンは、神経に直接作用して痛みを感じさせる物質であり、アシナガバチの毒による痛みの主役の一つとされています。さらに、より厄介なのが「アシナガバチキニン」と呼ばれるペプチド類です。これは、非常に強力な血管拡張作用と平滑筋収縮作用を持ち、激しい痛みと腫れを長時間持続させる原因となります。スズメバチの毒に含まれる「スズメバチキニン」と似た物質で、アシナガバチの毒が強烈である理由の一つです。これらの毒成分が注入されると、私たちの体はそれを異物と認識し、防御反応として炎症を引き起こします。これが、刺された場所が熱を持ち、ズキズキと痛むメカニズムです。アシナガバチの毒性は、一度に注入される毒の量こそスズメバチに劣るものの、痛みを引き起こす成分の含有率が高く、その痛みは「蜂の中でもトップクラス」とさえ言われます。彼らの毒の正体を知ることは、単なる虫刺されと侮らず、適切な処置を行うための第一歩なのです。