夏場になると、特に水田や畑の近くで、小さな虫に悩まされることがあります。中には、触れたり潰したりすると、まるで火傷をしたかのような激しい皮膚炎を引き起こす厄介なものがいます。それが通称「やけど虫」と呼ばれる昆虫です。しかし、「やけど虫は黒い虫だ」という認識は、実は少し正確ではありません。やけど虫の正式名称は「アオバアリガタハネカクシ」と言います。この名前が示す通り、体はアリに似た細長い形状をしており、頭部は黒色ですが、胸部と腹部の一部が鮮やかなオレンジ色(朱色)をしているのが最大の特徴です。体長は6ミリメートルから7ミリメートル程度と小さく、前翅は非常に短く退化しており、後翅を折りたたんでその下に隠しています。一見すると、アリとハチを合わせたような姿にも見えます。「黒い虫」というイメージが先行するのは、ハネカクシ科の昆虫には黒っぽい種類が多く存在することや、小さくて素早く動くため、色の詳細まで確認する前に「黒っぽい小さな虫」として認識されてしまうことが原因かもしれません。しかし、激しい皮膚炎の原因となる毒(ペデリン)を持つのは、主にこのアオバアリガタハネカクシです。他の黒いハネカクシの仲間には、毒を持たないものや、毒性が弱いものがほとんどです。したがって、黒い小さな虫を見かけたからといって、すぐにやけど虫だと断定することはできません。しかし、特徴的なオレンジ色の部分を持つ細長い虫を見かけたら、それはアオバアリガタハネカクシである可能性が高いと言えます。この虫は、体液に強力な毒成分ペデリンを含んでおり、これが皮膚に付着すると、数時間後から翌日にかけて、線状の赤い腫れや水ぶくれを引き起こします。この症状が火傷に似ていることから、「やけど虫」と呼ばれるようになったのです。決して虫自体が高温を持っているわけではありません。正しい知識を持ち、特徴を理解することが、適切な対処と予防の第一歩となります。
謎の黒い虫?やけど虫の正体とは