ある夏の日、Aさん宅の庭にある木の枝に、バスケットボールほどの大きさのアシナガバチの巣が発見されました。Aさんは、以前にも小さな蜂の巣を市販のスプレーで駆除した経験があったため、今回も自分で対処しようと考えました。ホームセンターで強力タイプと書かれた蜂駆除スプレーを購入し、週末の夕方、駆除作業に取り掛かりました。服装は長袖長ズボンに帽子と、最低限の備えはしたつもりでした。しかし、巣が予想以上に大きかったこと、そして夕方とはいえまだ蜂の活動が完全には収まっていなかったことが、後の悲劇を招きます。Aさんは巣から4メートルほどの距離を取り、スプレーの噴射を開始しました。しかし、スプレーの勢いが思ったほど強くなく、薬剤が巣全体に行き渡る前に、巣から大量の蜂が一斉に飛び出してきました。驚いたAさんは噴射をやめ、慌てて家の中に逃げ込もうとしました。しかし、興奮した蜂の群れはAさんを執拗に追いかけ、家に入る直前に頭や腕など数カ所を刺されてしまいました。幸い、Aさんはアナフィラキシーショックを起こすことはありませんでしたが、激しい痛みと腫れに見舞われ、すぐに病院で治療を受けることになりました。この事例の失敗の原因はいくつか考えられます。まず、巣の大きさを過小評価していたことです。バスケットボール大のアシナガバチの巣は、すでに最盛期を迎えており、内部には数百匹以上の蜂がいたと考えられます。このような大きな巣に対しては、市販のスプレー一本では薬剤量が不足し、全ての蜂を駆除するには至りません。次に、作業時間帯の選択です。夕方とはいえ、まだ蜂が活動している時間帯に駆除を試みたため、多くの蜂が巣の外にいる状態で刺激してしまい、一斉に反撃を受けやすくなりました。さらに、噴射を途中でやめてしまったことも、蜂をさらに興奮させる結果となりました。中途半端な攻撃は、蜂の防御本能を最大限に引き出してしまいます。この事例から得られる教訓は、蜂の巣の駆除は決して安易に考えてはいけないということです。巣の大きさ、蜂の種類、巣の場所などを冷静に判断し、少しでも危険を感じる場合は、無理せず専門の駆除業者に依頼することが最も安全な選択です。自力での駆除を試みる場合でも、万全の準備と正しい知識、そして撤退する勇気を持つことが重要となります。