ある年の夏、水田が広がる農村地帯で、アオバアリガタハネカクシ、通称「やけど虫」による皮膚炎の被害が多発しました。この地域では例年、ある程度の発生は見られていましたが、その年は特に梅雨明け後の高温多湿な天候が続いたこと、そして近隣での大規模な圃場整備工事の影響もあってか、やけど虫の個体数が異常に増加したのです。夜になると、家々の明かりに無数のやけど虫が飛来し、網戸の隙間やわずかな開口部から室内に侵入しました。住民たちは、寝ている間に虫に触れてしまったり、知らずに潰してしまったりして、翌朝、線状のミミズ腫れや水ぶくれといった典型的なやけど虫皮膚炎を発症するケースが相次ぎました。特に被害が多かったのは、水田の近くに住む高齢者や子どもたちでした。皮膚科には連日、多くの患者が訪れ、中には症状が重く、広範囲に皮膚炎が広がってしまった人もいました。日常生活への影響も深刻でした。夜間の窓の開閉に神経質になり、暑くても窓を閉め切って過ごさざるを得ない家庭が増えました。洗濯物を外に干すのをためらう人も多く、農作業中にも常に虫を警戒しなければならない状況は、住民にとって大きなストレスとなりました。この事態を受け、地域の保健所や役場は、やけど虫に関する注意喚起のチラシを配布したり、広報車で呼びかけたりするなどの対策に乗り出しました。具体的には、網戸の点検・補修の推奨、夜間の不要な灯火の消灯、屋内への侵入防止策、そして虫に触れた場合の正しい対処法(すぐに水で洗い流す、患部を掻かない、早めに皮膚科を受診するなど)の周知徹底が図られました。また、一部の自治体では、公共施設の周辺などで薬剤散布も検討されましたが、環境への影響を考慮し、限定的な実施にとどまりました。この事例は、気象条件や環境の変化によって、特定の害虫が突発的に大発生し、地域住民の生活に深刻な影響を及ぼす可能性があることを示しています。日頃からの情報収集と適切な予防策の実施が、こうした被害を最小限に抑えるために重要となります。