自然界において、音は生物にとって重要な情報源です。捕食者の接近を知らせる音、仲間とのコミュニケーション、縄張りの主張など、様々な場面で音が利用されています。では、蜂にとって、本能的に危険を感じ、避けるような「恐れる音」というものは存在するのでしょうか。もし存在するならば、それを蜂よけに応用できるかもしれません。可能性として考えられるのは、蜂の天敵に関連する音です。蜂の天敵には、鳥類、クモ、カマキリ、他の大型の蜂(スズメバチなど)などがいます。これらの天敵が発する特有の羽音や鳴き声、捕食音などを蜂が危険信号として認識し、回避行動をとる可能性は理論的には考えられます。例えば、一部のミツバチは、天敵であるオオスズメバチの羽音に似た特定の周波数の音に対して、警戒行動を示すという研究報告もあります。しかし、これらの反応は非常に特定の状況下でのものであり、広範囲の蜂全般に共通して有効な「天敵の音」を特定し、人工的に再現して忌避効果を得るのは容易ではありません。天敵の種類も多様であり、蜂の種類によっても反応は異なる可能性があります。また、自然界の音は非常に複雑であり、単一の音だけを取り出して効果を期待するのは難しいでしょう。もう一つ考えられるのは、蜂自身の発する警戒音や警告音です。例えば、ミツバチの巣が危険に晒された際に、特定の振動や音を発して仲間に危険を知らせる行動が知られています。しかし、これらの音は基本的に仲間への警告であり、外部の蜂を遠ざけるためのものではありません。むしろ、巣の防衛本能を刺激し、攻撃性を高める可能性すらあります。雷の音や強い風の音など、自然界の大きな音に対して蜂が活動を控えることは観察されていますが、これは一時的な避難行動であり、忌避効果とは異なります。結論として、蜂が本能的に恐れて避ける特定の音が全く存在しないとは言い切れませんが、それを人間が安全かつ効果的に蜂よけとして利用できるレベルで特定・再現することは、現時点では非常に難しいと言えます。音によるシンプルな解決策を期待したいところですが、蜂との共存や対策においては、より地道で確実な方法に目を向ける必要がありそうです。
蜂が本能的に恐れる音は存在するのか