それは、新緑が眩しい初夏の週末のことでした。かねてから計画していた渓流釣りに、友人と二人で出かけたのです。場所は山奥の清流で、まさに絶好のロケーション。釣りの準備に夢中になっていた私は、虫対策のことをすっかり忘れていました。長袖シャツは着ていたものの、薄手のもので、手首や足首は無防備。虫除けスプレーも持ってはいましたが、最初のうちは使わずにいました。「まあ、蚊くらいだろう」と高を括っていたのです。釣りを始めてしばらくすると、足元や腕に小さな黒い虫がまとわりついているのに気づきました。チクッとした軽い痛みを感じることもありましたが、釣りに集中していたこともあり、大して気に留めませんでした。それが、あの悪夢の始まりだったとは知らずに。釣りを終えて帰宅し、シャワーを浴びていると、足首や腕に無数の赤い点々ができていることに気づきました。この時点では、まだかゆみはそれほど強くありませんでした。しかし、その夜から状況は一変します。まず、足首に耐え難いほどの激しいかゆみが襲ってきました。見ると、咬まれた箇所がパンパンに腫れ上がり、熱を持っています。腕も同様で、まるで何かに殴られたかのように腫れあがっていました。かゆみは尋常ではなく、眠ることすらできません。掻いてはいけないと分かっていても、無意識のうちに掻きむしってしまい、血が滲むほどでした。翌日、皮膚科に駆け込むと、「典型的なブユ刺咬症ですね。かなりひどい状態です」と診断されました。処方された強めのステロイド軟膏と抗ヒスタミン薬を使い始めましたが、症状が完全に落ち着くまでには1週間以上かかりました。特に足首の腫れとしこりはなかなか引かず、歩くのも辛いほどでした。完治した後も、咬まれた痕は色素沈着としてしばらく残り、見るたびにあの時の苦しみを思い出します。たかが小さな虫と油断した代償は、あまりにも大きなものでした。あの日以来、アウトドアでの虫対策は絶対に怠らないと心に誓いました。