アシナガバチに刺された際の症状は、通常、刺された場所の痛みや腫れといった「局所症状」に留まります。しかし、最も警戒しなければならないのは、その毒性が引き起こす可能性のある、命に関わる重篤なアレルギー反応「アナフィラキシーショック」です。これは、蜂の毒に対して体が過剰な免疫反応を示してしまうことで発症します。初めて蜂に刺された時には起こらず、二回目以降に刺された場合に発症リスクが高まるのが特徴です。一度目に刺された際に、体内で蜂の毒に対する抗体(IgE抗体)が作られます。そして、再び同じ蜂の毒が体内に入ると、この抗体がアレルギー反応の引き金となり、全身に様々な症状を引き起こすのです。アナフィラキシーの初期症状としては、刺された場所だけでなく、全身に広がるじんましんや、皮膚の赤み、痒みなどが現れます。しかし、事態が進行すると、喉の粘膜が腫れて気道が狭まり、「声がかすれる」「息が苦しい」といった呼吸困難に陥ります。さらに、血管が急激に拡張することで血圧が低下し、めまいや意識混濁、失神といったショック症状を引き起こすことがあります。これがアナフィラキシーショックであり、発症からわずか15分程度で心停止に至るケースもある、極めて危険な状態です。もし、アシナガバチに刺された後、局所的な症状だけでなく、少しでも全身に異変を感じた場合は、一刻の猶予もありません。すぐに救急車を呼び、医療機関で適切な処置を受ける必要があります。蜂の毒の本当の恐ろしさは、このアナフィラキシーにあるということを、私たちは常に心に留めておかなければならないのです。