鳩が一度巣を作ると、なかなかその場所を諦めない理由は、彼らが持つ非常に強い帰巣本能と、驚くほど献身的な子育ての習性にあります。鳩の産卵と子育てのサイクルを知ることは、彼らの執着心の強さを理解し、対策を考える上で非常に重要です。鳩は通常、一度に二つの卵を産みます。産卵後、夫婦は交代で卵を温め始めます。この抱卵期間は、およそ17日から18日間続きます。この間、彼らは巣を離れることを極端に嫌い、巣の安全を脅かすものに対しては非常に警戒心を強めます。そして、無事に卵が孵ると、ここからが鳩の夫婦の真骨頂です。孵化したばかりの雛は、自力で餌を食べることができません。そこで親鳥は、「ピジョンミルク(素嚢乳)」と呼ばれる、自らの素嚢(そのう)の内壁が剥がれてできた、非常に栄養価の高いミルク状の物質を口移しで雛に与えます。これは哺乳類の母乳に匹敵するほどの栄養があり、このピジョンミルクのおかげで、雛は驚くべき速さで成長していきます。この子育て期間は、およそ一ヶ月。その間、親鳥は絶えず餌を運び、雛を外敵から守り続けます。そして、雛が無事に巣立つと、母鳥は休む間もなく次の産卵の準備に入ることさえあります。年間を通して何度もこのサイクルを繰り返すことができるのです。このように、鳩にとって巣とは、命を繋ぐための極めて重要な拠点です。一度でも子育てに成功した安全な場所は、彼らの記憶に強く刻み込まれ、翌年以降も同じ場所に戻ってこようとします。この献身的な子育てと強い執着心こそが、私たちが鳩対策に手を焼く最大の理由なのです。