夏になると気になる蜂の存在。刺されることへの恐怖から、「蜂が嫌がる音」があれば手軽に遠ざけられるのではないかと考える人もいるかもしれません。実際に、特定の音波を使って害虫を駆除すると謳う製品や情報も存在します。しかし、科学的な観点から見て、本当に音で蜂を効果的に遠ざけることは可能なのでしょうか。結論から言うと、現時点では「蜂が嫌がる特定の音」が存在し、それを利用して確実に蜂を忌避できるという科学的根拠は乏しいと言わざるを得ません。昆虫の中には、特定の音に反応するものがいます。例えば、蛾の中には天敵であるコウモリの超音波を感知して回避行動をとるものが知られています。しかし、蜂(特にスズメバチやアシナガバチ、ミツバチなど、人間が問題にしやすい種類)が、人間が容易に利用できる特定の音波(可聴音域の音や超音波)を嫌って広範囲から逃げていくという明確な証拠は見当たりません。市販されている超音波式の害虫駆除器についても、その効果は限定的であるか、あるいは科学的に証明されていない場合が多いのが実情です。超音波は指向性が強く、障害物があると減衰しやすい性質があります。広範囲に影響を及ぼすのは難しく、仮に蜂が超音波を不快に感じたとしても、その場から少し離れる程度で、巣作りを防いだり、広範囲から蜂を完全に排除したりするほどの効果は期待しにくいと考えられます。むしろ、大きな音や振動は、蜂、特に巣を守ろうとするスズメバチなどを刺激し、攻撃性を高めてしまう危険性の方が高いとされています。巣の近くで草刈り機やエンジンチェーンソーなどの大きな音を出す作業を行う際は、蜂を刺激しないように十分な注意が必要です。音による蜂よけに過度な期待を寄せるのではなく、蜂を刺激しない行動を心がけること、巣を作らせないための予防策(家の周りの点検、誘引物の除去など)、そして巣を発見した場合の適切な対処(専門業者への依頼など)を行うことが、最も現実的で安全な方法と言えるでしょう。
蜂よけに音は効果があるのか科学的視点