あれは、引っ越してきて間もない頃のことでした。新しい生活に胸を躍らせつつも、古い賃貸アパートだったので、虫対策はしっかりしようと心に決めていました。一通り掃除を終え、家具の配置を考えていた時、部屋の隅、本棚を置こうとしていた場所の壁際に、何か黒っぽい小さな粒が落ちているのに気づきました。「ん?ゴミかな?」最初はそう思いました。大きさは小豆くらい。色は黒褐色で、少し光沢があるようにも見えます。拾い上げようとして、壁にしっかりとくっついていることに気づきました。無理に剥がそうとすると、ポロっと取れましたが、壁には接着剤のような跡が残っています。その瞬間、嫌な予感がしました。ゴキブリという単語が頭をよぎったのです。すぐにスマートフォンで「黒い 小さい 粒 壁にくっつく」といったキーワードで検索しました。表示された画像の中に、見覚えのある物体が…。「ゴキブリ 卵鞘」という文字が目に飛び込んできました。全身の血の気が引くのを感じました。これが、あのゴキブリの卵。しかも、一つだけではありません。よく見ると、同じような黒い粒が、巾木(壁と床の境目の木材)の隙間や、近くにあった使われていないコンセントカバーの裏にも数個見つかりました。恐怖と気持ち悪さで、しばらくその場で動けませんでした。この小さなカプセルの中に、数十匹のゴキブリの赤ちゃんが詰まっている。それがもうすぐ孵化するかもしれない。そう考えただけで鳥肌が立ちました。駆除しなければならない。でも、どうやって?潰したら中身が出てきて大変なことになるのでは?パニックになりかけましたが、深呼吸して、再びスマホで駆除方法を調べました。絶対に潰してはいけないこと、袋に入れて密封するか、熱湯をかけるのが良いことなどが書かれていました。私はゴム手袋をはめ、ティッシュペーパーで卵鞘をそっと掴み、ビニール袋に入れました。念のため、袋を二重にし、口を固く縛りました。そして、その袋をさらにジップロックに入れ、ゴミの日まで冷凍庫で保管することに(凍らせるのも効果があると読んだので)。壁に残った接着剤のような跡も、アルコールで念入りに拭き取りました。あの黒い粒を発見した時の恐怖は、今でも忘れられません。この一件以来、部屋の隅々までチェックする癖がつき、ゴキブリ対策には人一倍神経を使うようになりました。
黒い粒それはゴキブリの卵だった恐怖体験