自然界において子育ては親鳥にとって莫大なエネルギーを必要とする一大事業であり、通常は餌となる昆虫や植物が豊富にある春から初夏にかけて行われるのが一般的ですが、ドバトはこの自然の摂理を超越して産卵時期を選ばずに一年中繁殖できるという特殊能力を持っており、その秘密は彼らの喉の奥にある「素嚢(そのう)」という器官とそこから分泌される「ピジョンミルク」にあります。ピジョンミルクとは、哺乳類の母乳に似た成分を持つタンパク質と脂肪に富んだチーズのような物質であり、親鳥の脳下垂体から分泌されるプロラクチンというホルモンの働きによって素嚢の内壁が剥がれ落ちて生成されるもので、驚くべきことにメスだけでなくオスもこのミルクを作ってヒナに与えることができます。この能力のおかげで鳩は季節によって変動する昆虫などの外部の食料資源に依存することなく、親鳥さえ餌を食べていれば自らの体内で作り出した完全栄養食をヒナに与えて育てることが可能となり、真冬であっても乾燥地帯であっても子育てを成功させることができるのです。またピジョンミルクは非常に栄養価が高く消化吸収も良いため、鳩のヒナは他の鳥類と比較しても圧倒的なスピードで成長することができ、孵化してからわずか一ヶ月程度で親と同じくらいの大きさになって巣立つことができるため、親鳥はすぐに次の繁殖サイクルへと移行することが可能となります。この「自家製ミルク」という進化の過程で手に入れた強力な武器こそが、彼らを都市環境における最強の繁殖者たらしめている要因であり、私たちがどんなに兵糧攻めをしようとしても彼らの繁殖意欲を削ぐことが難しい根本的な理由となっていることを理解する必要があります。