私が、今の家に引っ越してきてから、もう五年になります。この五年間、私は、家の中で一度も、生きているゴキブリの姿を見ていません。それは、決して偶然ではありません。私が、毎晩、寝る前に欠かさず行っている、いくつかの地道な「儀式」の成果だと、確信しています。それは、ゴキブリに「今夜も、この家に泊まる場所はない」と、宣言するための、静かなる戦いです。まず、一日の終わり、最後の食器を洗い終えた後、私はキッチンのシンクを完全にリセットします。三角コーナーの生ゴミは、小さなビニール袋に入れて口を固く縛り、蓋付きのゴミ箱へ。ゴミ受けに溜まった細かなくずも、きれいに取り除きます。そして、シンク全体をスポンジで洗い上げ、最後に、乾いた布で、水滴一つ残らないように、完璧に拭き上げます。蛇口の周りも、念入りに。これで、彼らの夜の給水ポイントは、完全に断たれました。次に、コンロ周りの掃除です。その日の調理で飛び散った、目に見えない油の粒子を、アルコールスプレーとキッチンペーパーで、丁寧に拭き取っていきます。油汚れは、ゴキブリにとって、最高級のディナーです。そのご馳走を、一切残しません。床に落ちた、パンくずや、野菜のかけらがないかも、最終チェックします。そして、儀式の最後を締めくくるのが、ハッカ油スプレーの散布です。自分で手作りした、爽やかな香りのスプレーを、シンクの下の配管周り、ゴミ箱の蓋の裏、そして、玄関のドアの下の隙間に、シュッ、シュッと吹きかけていきます。これは、私の家の入り口に、「侵入禁止」の結界を張るようなものです。この一連の作業にかかる時間は、わずか十分程度。しかし、この毎晩の地道な繰り返しが、ゴキ-ブリにとって、我が家を「餌も水もなく、不快な匂いがする、全く魅力のない場所」へと変えてくれたのだと、私は信じています。ゴキブリ予防に、特別な魔法はありません。あるのはただ、清潔を愛し、継続する力だけなのです。